しゃばらしゅびらの記

ちからっ子の末裔

歩いて5分

伊藤整によると「とんでもハップン」はアメリカの一世のつかっていた日本語なのだそうだ。Never happenを「とんでもハップンです」といったのだとか。 したがって「とんでもハップン」は「トンデモハップン」でもなければ「とんでもはっぷん」でもなく「とん…

シングアソングライター

半世紀まえには詩人は割にいたるところに存在した。小説家が書き、批評家が書き、音楽家が書き、もちろん詩人が書いた。いまはどうか知らん。 *** 上林暁をみていると、画面を白っぽくするだけではダメなことがわかる。当然だ。しぜんにあたりまえに漢字…

九十九折り

見栄は含羞とうしろで手をつないでいる。 *** ほんとうにじぶんがその立場になると、かえって書けなくなる。わからないうちは書けるが、わかると書けなくなる。書けないときはわからないせいにしたくなるが、そういうものでもない。 あたりまえのことだが…

軟筆文化

万年筆のエレガンテ。ペン先の応答、心やすい運筆、とぎれないインクフロー。 *** 向田方式を連想でつないでいくとすれば、上林方式は「おっ」とおもうできごとに向けて自分の行動を書き連ねていき、そこから一日のおわりでしめくくる。要は日記形式なの…

ラゴの子分②

定期的にくずやにたのんでがらくたを金にかえると、すこしは収入になった。そうしてふた月がすぎ、雪がちらつくころになって、私はようやく冬じたくをはじめた。 部屋には古い薪ストーブが据えつけられており、薪を調達できればつかえそうだった。のこったが…

おうつり

向田邦子の運筆まとめ。 ・自分のことをひとつずつ掘りさげて書いていく。 ・あるある的な感情、または「おっ」と思ったことがらについて、例をいくつかさがし、その例からひろがるものを本題としてつかう。 ・とりあげる例を、にたようなものばかりにせず、…

朽ちて冷える一本の歯

ときおり引用されているようだけれど、世界でもっとも短い手紙は、ユーゴーが『レ・ミゼラブル』を出版した際、その版元にだした手紙であるという。その全文は 「?」 というもの。それに対する版元の返事が 「!」 だったというから、これはもう恐れ入り谷…

マカオ随想3

路上には屋台がならんで、スクーターや車が容赦なく小道を駆け抜けていく。自転車はほとんどいない。スクーターのエンジン音は喧騒を、雑多な屋台は猥雑さを醸しだしはするものの、奇妙なことにそのふたつについてくるはずの熱気がない。ほこりっぽい風は路…

マカオ随想2

おもいおもいに太極拳をしたり民謡調のチャイニーズ・ミュージックにあわせてラジオ体操のようなものをしたり「健身器具」なる機器を駆使してサーキット・トレーニングをしたりする。 砲台のうえを風がとおり抜けている。砲をのせる凹凸は、ひとがっても我関せ…

マカオ随想1

壊れた時計の時間、それは時の淀みのようなものか。 *** アーノルド・パーマー+ダンヒル、西欧のダンディズムと東方的「大人」は鄙びた一流のゴルフウェアとシャッポというかたちで幸福な邂逅を果たす。 カジノのディーラーは彼らダンディと大人たちの格…

天動

トランポ・・・トランスポートの略。→【トランスポート】 *** 街にはそれぞれ独特の雰囲気がある。良いか悪いかではなくあるかないかという話でいったらまちがいなくある。「フンイキがない」というのも含めてある。 それでこのフンイキ、と書いて話は突…

かっぺいの敵

目ざとく耳ざとく機転が利き、ひとにほめられる振舞いができてそのたびに得意になり、きかれてもいないのにひとにもそれを教えてかえって反感を買う。激情家でロマンチストで、幼いころからそれを抑える訓練をうけているが、いつになってもときどきおもてに…

内陸縦貫鉄道の旅 ~北秋田行~

内陸を縦貫するワンマン車に乗っていく。車というよりはオレンジ色の箱だ。車内は半分バスのようで、入口に運賃箱と整理券の機械がついている。 さきに乗った老人にならって整理券をとり、車内の全容をみるとほんとうにボロボロだ。しかも神さびているなどと…

風韻

向田邦子からまなぶのはむずかしい。いまのスタイルのまま、どこを借りてこられるかだが、すくなくともひらきかたでないのはたしか。むしろ運筆と文型だろう。 文型のほうがとっつきやすそうだが、この点、あきらかに自分とは体内時計がちがう。あちらは端正…

Kochitora Hagureta Hippies

手ずから筆写するにまさる読みかたは、今日にいたるまでみつかっていない。 *** 時代の潮流を知るには音楽がてっとりばやい。ことばはいつも、さいごまで乗りおくれる。だから、というわけでもないだろうが、気に入って聴いている音楽のような文章を目ざ…

春の光

4月の太陽はすこしだけまぶしくて、われわれにひとつの錯覚を供する。見えたつもりでわかっておらず、つかんだつもりがつかめておらず、当てたつもりでなぜか空振りしてしまう。 事物の輪郭は明瞭さを増すようにみえながら、じつは含ませすぎた墨汁のように…

てんさい党

天才の定義(順、重要度不同)。 *** 天才=悪者。 天才=許されざる者。 天才=人の技にのっかる。 天才=オレなんでもできるぜ。 天才≠パクリ。 天才=オマージュ。 天才=モーツァルト的。 天才=カメレオン。 天才=語尾に気を遣う。 天才=ちがう景…

気がつけば、ミッドナイト

2月の街はすこし遠くて、なかなかでかける気にならない。4月の街は雨降りで、土曜の夜は期待と高揚と不安と焦燥のいりまじった一種異様な喧騒につつまれている。3月の街がどうであったのか、気がついたら4月になっていたから、おもいだせないのである。 独房…

海を追いかけて―男鹿紀行―

【寒風山】・・・つめたい風が年じゅう横なぐりに吹きすさんでいる山。 *** 「キリストはあなたを罪から解放する」のだそうだ。地方にいくほど聖書を抜粋した黒板を目にする機会がふえる理由は何か。 ・地方のほうが宗教的宣伝活動に寛容だ ・都会ではほ…

はばたき飛行、滑空、モーター

ひとは空を飛ぼうとしてまず鳥の真似をしてはばたくところからはじめたが、結果として、はばたくのではなく羽根つきの機体をエンジンでうごかし、そのなかにはいるというかたちで快適な空の旅を実現した。おなじ結果をもとめてまず真似からはいるとしても、…

『パラレル同窓会』

カレンダーをみていたら、はやいものでここに来て3年半ちかくたっていた。時間の感じかたが子どものころとくらべてずいぶんかわってきている。むかしのいち日はもっと長くて、日はいつまでも暮れることがなかったし、たのしい時間は永遠につづくようにおもえ…

天使の酒場

ひとつずつ、ひとつずつ、退路はかりそめの希望とひきかえに燃やされ、埋められ、あるいは沈められる。 もはや換えるものがなくなったとき、われわれは絶望するしかなくなるが、「どうしてそんなになるまで気づかないのか」ときかれても答えられない。問い自…

Mr.まぼろしぼうし

シャッター音、ストロボ、フラッシュをたく音。ICレコーダー。手帳、ペン、記者たちの顔のアップ。ざわめき。そしてマイクのスイッチがONになる。 「ミスター・マボロシボウシ、おしえていただきたいのですが」と、のっぽの記者がきりだした。 「今宵、…

筋違い

喫茶店のインストゥルメンタル・ミュージックを聴いていて、耳おぼえのあるメロディーがながれてきたので、なんの曲だったろうと首をひねっていたら筋を違えてしまった、というのはただのウソ。 ランキング参加中言葉を紡ぐ人たち

耳人間

「わッ耳人間だ! 逃げろッ!」 子どもたちはクモの子のように散り散りに、とりのこされた耳人間は耳たぶを耳穴に丁寧に畳みこむとそのまま空中に消えてしまいましたとさ。(おしまい) ランキング参加中はてな文芸部

歳月は知恵を生まず老残を増やす

いろいろな人間がいろいろなことをかんがえ、かつ発信している。映像や文字のかたちをとって、ネットワークをとおして世界中にさらされる。かつてなく手軽に、広範囲に発信できるうえ、反応を無視することも容易だから、しだいに独白めいてくる。 独白はクオ…

サロン

総合病院の診察予約―あってなきが如し。 *** とある総合病院の待合室の会話。 「○○さん今日来ないねー」 「おかしいねえ」 「ビョーキなんじゃないの?」 ランキング参加中はてな文芸部

Graffiti Corner

続・うっすらヒップホップばなしのつづき。 krokovski1868.hateblo.jp *** 【タグ】・・・らくがきサイン。スプレーペンキで公共の場所の壁などに装飾的に描かれたらくがき。画家の個性的なサイン。断片。かけら。下層民。 【タギング】・・・壁にスプレ…

気分屋の決闘

だれもがうたうことができるという事実を、皆わすれているのかもしれない。 高高度資本主義社会においては、革命はきわめてゆるやかにしか起こりえない。そのとおりだろうとはおもうのだが、どうしてそうなのかといったら、私たちひとりひとりの行使できる影…

夜明けの直前に、もっとも暗い時間がくる。

さて、こんな感じでひとつおわるごとにまったりしていたら、時間も存外とぶようにすぎ去って、日々たのしく送っていけるのかもわからない。 仮に「次、また次」と急いで―かどうかは知らぬ、前のめりといいきることすらできそうにない―すすんでいって、しかし…