定期的にくずやにたのんでがらくたを金にかえると、すこしは収入になった。そうしてふた月がすぎ、雪がちらつくころになって、私はようやく冬じたくをはじめた。
部屋には古い薪ストーブが据えつけられており、薪を調達できればつかえそうだった。のこったがらくたのなかから、客が代金がわりにおいていった厚手の手袋とワークブーツもみつかった。あるいは客のほうで新参者に気をつかったのかもわからない。
寒さのせいか、訪れる客はほとんどいなくなった。猫は飼い主のもとへかえり、ラジオも雪のために電波がわるくなり、音楽がとぎれると、雪の音がきこえそうなほどしずかになった。
この世界では、テクノロジーはずいぶんまえにほろんでしまっていた。なくなってからどのくらいたったかわからないくらいむかしだ。当時のモノたちは風化の影響をうけながらも、ほとんどはそのままのこっていたから、いくつかの技術は利用されてはいた。しかしながらその仕組みはわからないままだったので、これは寿命がきたらそれでおわりという、いってみれば一代かぎりの奇蹟といったしろものだった。
街については相変わらずわからないことだらけだった。住人たちはそれぞれの役割を淡々とこなしていて、彼らが必要とおもう以上のことは口にしなかった。
かろうじて知ることができたのは、街が周囲からゆるやかに隔てられていることだった。街はどこからもはなれていて、国境からは遠く、都ははるかに遠いのだった。首都には王がいて、法が街を統治しているようだったが、街のひとびとはそんなことは知らぬ顔で生活をつづけていた。彼らは王を見たこともなければ国のことも知らず、ひたすらに判で押したような毎日をくりかえしていた。(この項了、次回につづく)