しゃばらしゅびらの記

ちからっ子の末裔

2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

暗騒音

自分で手放したのだ。最後の手綱を手放したのだ。 *** 「もうお前はどこへも行けない」そうペングィンはいった。 「うるさい、ペンギン風情が何をいいやがる」僕は悪態をついた。 ペングィンは哀れむような眼で僕を見た。彼の羽根がこまかくふるえていた…

No. 5

【近代】・・・進歩という名の幻想。 *** あたりは霧に包まれ、歩んできた道もわからない。長く歩きつづけたために目はかすんでしまって、進みはじめたときにあれほどはっきり見えていた目的地は、いまやおぼろげな灯りでしかなく、どの方角にあるのかさ…

Toner Fish

さてそれから春風秋雨、十年の時が流れました。 *** トンネル。一直線に伸びる白色灯。通りすぎる電車と、それが連れてくるつむじ曲がりの風。 外には細かい雨が降っているから、トンネルの出口は白くぼやけている。うすもやのなかに電柱と高架がつづいて…

紙やすりのバレエ

この街の太陽にはまったく愛想というものがない。むかし湘南を訪れたときもおなじことを思った。サンダルの足が燃えだしてしまいそうだ。 ひとの多さもさることながら、かくも非情なる太陽のもと、人々は奇妙に無表情に歩きまわっている。その眼差しからは彼…